息子とべしゃべしゃしゃべりながら階段を降りていくと、ホームに電車が止まっていた。
ラッキー、待たずに乗れるじゃん、と思っていると、目の前でプッシューとドアがしまって、電車は行ってしまった。ぼーぜんと見送る。
「なんなん。いっしゅんの差じゃったじゃん。行ってしもうたじゃん。」と息子に愚痴を言うと、「次のに乗ればええじゃん。」と冷静に返された。
頭ん中でぶちぶち言いながら、ホームの先頭に並ぶ。
すると、すぐうしろに、ものっすごいきれいな、かわいいお嬢さんが並んだ。
服は地味目なんじゃけど、超目立ってかわいい。こんなきれいなヒトが、町ん中を普通に歩いてたりするんか、と思うぐらいにきれいだった。
駅のアナウンスの音楽を、小さな声で鼻歌で歌ったりして、よけいにかわいかった。
次の電車が到着し、降りる客と入れ違いに電車に乗り込むが、慣れないせいで出遅れる。先頭におったはずなんですけど。
息子はさっさと乗り込んで席に座るとこだったが、例のお嬢さんと同じ列、通路をはさんだ反対側の席だった。
「でかした、わが息子よ。」と思いながら席に着いた。
それからは、どきどきして、すごい幸せな時間だった。ときどきちら見しては、ええなあ、ええなあと思っていた。
(まさにおっさん。女性の敵ですね。)
そうなると隣に座っている息子のことは、どうでもええ。が、息子の方もオヤヂのことはどうでもよくて、買ってきたカードゲームのカードを、熱心にくっていた。
一枚一枚、ていねいに見入って次のカードをくる、その真剣なまなざし。
こいつは、貴重な行き来の通学時間を、勉学にあてようゆう気はないんだな、と思いながら見ていた。
しばらくすると、かっぷくのいいご婦人が、お嬢さんのとなりに座ってしまった。
「ああ、おばちゃんその席はかんべんして、見えんくなるじゃん。」と、よこしまなことを考えていると、ご婦人と目が合ってしまった。どうも、すみません…。
ご婦人は、二駅ほどで降りてゆかれた。あーよがった。
そろそろ自分の駅、ゆうころに、お嬢さんが降りるそぶりを始めた。
おー、おんなじ駅じゃん、運命感じるなあ、と勝手に感動する。
で、駅に着いて電車を降り階段を上がると、おなじ改札口にお嬢さんも向かっているではなひか。
なんということ、運命感じるなあ、とまた勝手に感動する。うちの駅は、改札口はふたつしかないんじゃけどね。
電車を降りるときから、大量のゲームカードをいかに整理するかを語り始めた息子。
それに相づち打ったり、突っ込みいれたりしながら歩いていると、”運命”を追いこしてしまった。
「ああ、わたしの”運命”が、遠ざかってく気配がする。」と思いながら歩いて、改札で”ピッ”とカードをタッチしたら、”運命”はしゅうりょう。
えんえん語り続ける息子に相づち打ったり突っ込みを入れたりしながら、てくてく歩いて家まで帰った。
世の中、えらいきれいなヒトがいるもんだとつくづく感心した。縁は、まったくないんじゃけどね。