そのまた上に、高くそびえる塔のてっぺんは、びーぶーと風がふいて、めちゃ寒かった。
はるか下に、港町が見おろせ、そのむこうには、きらきらと海が、さらに瀬戸内の島々が見えた。
多島美、多島海。"アースシー"だ("ゲド戦記"の)。
なんつって思いながら見ていた。
「橋なんかかかっちゃってるけど。」
つらなる島を、巨大な城壁のように見える橋がつないでいる。
ちょっと無粋だが、それも景色だ。ヒトの生活や願いがこもった。
"3.11"の直後だったので、港町を見下ろしていると、住宅や農地が、真っ黒に塗りつぶされてゆくTVの映像が、ちょっと頭をよぎった。
目をつぶって、大きく深呼吸をした。
目をあけて、ゆっくりと体をまえにたおしていった。
思ったよりもスムーズに、体がすっとまえにでた。
多島美は、視界のうえの方に消えてゆき、かわりに地べたが、塔の足元が、ズームされたように、ぐわっと目にせまってきた。
からだが、全身が、恐怖にぶわっとつつまれた。体ん中から吹き出てきたのかも知れない。きもちもからだも、わしづかみにされる感じ。
でも、つぎの瞬間に、おなかにへその尾のようにつながれたコードにひっぱられて、からだがくりっと、空の方にひっくり返った。
どんより曇った空を見ながら、「んー、いまいち興(きょう)がないな」、「コードは背中か足首の方がええな」、などと考えながら、さらに落ちていった。
もうおわかりでしょうが、バンジージャンプのはなし。
30mほどの塔のうえから飛び降りるっちゅうバカなアトラクション。しかも金払って。
15年ほどまえにやったときは、ハイな気分が一週間ばかりつづいた。
脳ミソんなかを、へんな物質がどくどくと流れていたのだろう。
で、うつうつとした気分には、バンジージャンプが効くんじゃないかと思って、ひさびさにやってみた。
ところが。飛ぶ瞬間、じぶんでもびっくりするぐらいに、すいっとからだがまえにでた。
前回は、落ちる前は恐怖でがちがち。落ちる瞬間からびよんびよんと上下してる間まで、ずっとじたばたと手足を動かして"走って"いたらしい。自分では覚えてない。
今回は、恐怖でからだが固まる瞬間は、するっと短い時間で通り抜けてしまった。体にも力が入ってないように感じた。
若いころと、どこが違うんかわからない。
うつうつとした気持ちが、思ったよりも強くて重いんかもしれんし、年齢かさねて、へんに経験値が上がったからかもしれん。
自殺の願望があるわけではもちろんない。
ふつうのジェットコースターに乗ったあとのように、ごくふつうに、「おまたせ」ゆうて家族のところにもどった。
ハイな気分には、ぜんぜんならんかった。
娘が下から撮ってくれた写真は、ほんとに力が抜けてて、ひもにぶらさがった棒人間(落書きの)のようだった。
塔からのながめは最高じゃったんじゃけどね。
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