2011年4月11日月曜日

おちる

 小高い山の。
 そのまた上に、高くそびえる塔のてっぺんは、びーぶーと風がふいて、めちゃ寒かった。

 はるか下に、港町が見おろせ、そのむこうには、きらきらと海が、さらに瀬戸内の島々が見えた。

 多島美、多島海。"アースシー"だ("ゲド戦記"の)。
 なんつって思いながら見ていた。

 「橋なんかかかっちゃってるけど。」

 つらなる島を、巨大な城壁のように見える橋がつないでいる。
 ちょっと無粋だが、それも景色だ。ヒトの生活や願いがこもった。

 "3.11"の直後だったので、港町を見下ろしていると、住宅や農地が、真っ黒に塗りつぶされてゆくTVの映像が、ちょっと頭をよぎった。

 目をつぶって、大きく深呼吸をした。

 目をあけて、ゆっくりと体をまえにたおしていった。

 思ったよりもスムーズに、体がすっとまえにでた。

 多島美は、視界のうえの方に消えてゆき、かわりに地べたが、塔の足元が、ズームされたように、ぐわっと目にせまってきた。

 からだが、全身が、恐怖にぶわっとつつまれた。体ん中から吹き出てきたのかも知れない。きもちもからだも、わしづかみにされる感じ。

 でも、つぎの瞬間に、おなかにへその尾のようにつながれたコードにひっぱられて、からだがくりっと、空の方にひっくり返った。

 どんより曇った空を見ながら、「んー、いまいち興(きょう)がないな」、「コードは背中か足首の方がええな」、などと考えながら、さらに落ちていった。


 もうおわかりでしょうが、バンジージャンプのはなし。
 30mほどの塔のうえから飛び降りるっちゅうバカなアトラクション。しかも金払って。

 15年ほどまえにやったときは、ハイな気分が一週間ばかりつづいた。
 脳ミソんなかを、へんな物質がどくどくと流れていたのだろう。

 で、うつうつとした気分には、バンジージャンプが効くんじゃないかと思って、ひさびさにやってみた。

 ところが。飛ぶ瞬間、じぶんでもびっくりするぐらいに、すいっとからだがまえにでた。
 前回は、落ちる前は恐怖でがちがち。落ちる瞬間からびよんびよんと上下してる間まで、ずっとじたばたと手足を動かして"走って"いたらしい。自分では覚えてない。
 今回は、恐怖でからだが固まる瞬間は、するっと短い時間で通り抜けてしまった。体にも力が入ってないように感じた。

 若いころと、どこが違うんかわからない。

 うつうつとした気持ちが、思ったよりも強くて重いんかもしれんし、年齢かさねて、へんに経験値が上がったからかもしれん。
 自殺の願望があるわけではもちろんない。

 ふつうのジェットコースターに乗ったあとのように、ごくふつうに、「おまたせ」ゆうて家族のところにもどった。
 ハイな気分には、ぜんぜんならんかった。

 娘が下から撮ってくれた写真は、ほんとに力が抜けてて、ひもにぶらさがった棒人間(落書きの)のようだった。

 塔からのながめは最高じゃったんじゃけどね。

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