タバコを吸いに非常階段にでた。
しゃがんで(んこずわり)火をつけて、ふと横を見ると、コンクリのかどにはまりこむように、黒い甲虫がいた。
2センチ弱ほどの細長いすがたにぴんときて、くわえタバコのままでちょいちょいと指でつついてひっくり返してみた。
すると。
"ぱっちん"
と、乾いたきもちのいい音をたてて、ムシはジャンプしておもてに返った。
おおやっぱり、とうれしかったのと、音とジャンプがあまりに見事だったんで、タバコを吸ってるあいだ指でつついては"ぱっちん"を楽しんだ。
タバコを吸いおわると、このうれしさをひとりだけで味わうのがもったいなく思えて、タバコケースの中にムシを入れて事務所にもどった。
事務室にいた女性職員に、見て見て、と声をかけた。ひとりはムシが不得意そうだったんで、ご飯もう食べた?(ムシ見てもだいじょうぶ?)、と声をかけたが、"わたしはいいです"ゆうて逃げられた。そりゃそうだわ。
ひとしきり職員をたのしませたのち、ムシは孫に見せるゆうことで上司に引きとられてった。持って帰ってもらうのに、わざわざペットボトルに穴をあけてムシカゴがわりを作った。
翌日聞いたら、お孫さんたちはたいそうよろこんで、けっきょく上のおねえちゃんが小学校につれてくことになったそうな。
いまどきの子は、ムシを見たりさわったりすることがずいぶん減っただろうが、カレ(カノジョ?)は、きっと子どもらを夢中にさせるだろう。
ただし…、いっきに寿命をちぢめちゃうんですけど。すまんかったのお。
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