2012年11月17日土曜日

なぎさにて


 この半年ぐらい、クルマのエンジンの調子がわるかった。

 アイドリングが異様に高いままで、もどんない。以前はかるくパンとアクセルを吹かしてやると回転が戻ってたのに、イエローだかレッドゾーンだか、フルスロットルぐらいに一度回してやらないと戻らなくなってた。

 この2~3日はさらにひどくなって、思いきし回してもエンジンの回転が下がんなくて、異様に高いアイドリングのままで走らざるを得なくなってた。
 こうなると、たんにうるさくて燃費が悪いだけじゃなくて、ギアの入りは悪いし、バックに入れるときなんざ、”バリ”とか”ガリ”とか盛大にギアが鳴るしで、運転自体に支障が出てきた。

 キャブレターが悪いんじゃないかと思ってて、いつも世話になっとるクルマ屋さんの年配のメカマンに相談したら、やっぱりキャブで、フロートが固着してるんじゃないかと言われた。
 それって、キャブを分解してきれいにしたら直りますよね、と言うと、ははははと笑ったあとに、「勘弁して、もとに戻るかわからんから」と断られた。ちっ、ダメか。

 しかたないので、キャブクリーナーというスプレーを買ってきた。説明書きに、2ストには使わんようにと書いてあったが、見なかったことにした。
 ひと気のない埠頭で二度ほど作業してみた。エンジンをかけて、エアクリーナーんとこからスプレーするんじゃけど、けっきょくアイドリングが高いままなのは戻らなかった。
 で、三度目の挑戦は、ひと気のない埠頭から、ひと気のすくない、なぎさの公園(の駐車場)に気分を変えて行ってみた。

 まわりにぜんぜんクルマがいない、駐車場のいちばんはじにクルマを停めて作業開始。エアクリーナーからフィルターをはずし、エンジンをかけて、キャブクリーナーのスプレー缶をじゃかじゃか振ってから、キャブレターが鎮座している奥にむかって吹きつける。ときどきアクセルを空ぶかししてみる。ゆうのを繰り返した。

 何度か繰り返しているうちに、スプレー缶の先っちょにつけてた細くて赤いノズルがぽろっと取れてしまった。負圧でエアクリーナーカバーの中に貼りついた。
 「やばっ!」と手をのばして取ろうとしたつぎの瞬間に、”消えた”。つまり、吸いこまれちゃった…。

 悲劇は(喜劇か?)これで終わらんで、エンジンの回転が急に上がって、うなりをあげてフル回転をはじめた。キャブのへんなとこに、へんなふうにノズルがはまりこんで”フルスロットル固定”状態になっとるらしい。

 ぎゅいーんと電気モーターのように回るエンジン。車体全体がぶるぶるふるえている。やばい、このままじゃあエンジンがおしゃかになっちゃう。
 運転席に急いで座って、イグニッションキーをオフにした。止まんない! キーをオフにしたのにぎゅいーんと回り続けるエンジン。もう意味わかんねえ。

 えいやっとチョークをいっぱいに引っ張ると、やっとこさプッスンとエンジンが止まった。”カブって止まった”ちゅうやつです。

 なんとしても吸気系からノズルを引っ張りださにゃあなんない。おうちに帰れない。
 金属のバンドを二つはずしてキャブとエアクリーナーをつなぐダクトをはずすと、キャブの中に赤いノズルが見えた。スロットルの羽根(?)よりもさらに奥に吸い込まれてて、指を突っ込むとさわれるが、キャブの開口部がせまくてつまむことはできない。ラジオペンチを突っ込むが届かない。ドライバーを突っ込んで、ドライバーと指ではさんで引っこ抜こうとするが、えらくはまり込んでて抜けねえ。

 さいごは、タコ糸のような細いヒモをキャブの中に入れて、ノズルに巻きつけて引っこ抜くという、自分でも信じられんような超絶技巧でやっとこさノズルが抜けた。
 赤いノズルは曲がってて、こころなしか短くなってるように感じた。

 これで、へんなもん吸い込んじゃったからJAFだかクルマ屋さんだか呼びました、それもなぎさの公園に、ゆういちばん恥ずかしい事態はまぬかれた。

 ここで、もともとそこまでやる気はなかったのに、キャブがむき出しになってた。気を取りなおしてまたエンジンをかけ、今度は直接キャブにクリーナーを吹きかけ始めた。ジャマするものはなにもねえ、ぞんぶんにぷしゅぷしゅと吹きかけられた。

 するとなんということでしょう。ばっちりエンジンの調子が戻って、アイドリングが安定したではあーりませんか。
 ドコドコドコと回るアイドリングの音とリズムは、調子がいいころのそれだった。不幸中の幸いとは、まさにこのこと。

 すっかり暗くなったなかを家まで帰ったが、信号でとまっても静かだし、ギアはすこすこスムーズに入るしゆうことなし。

 めでたしめでたし。あー、くそびびった。

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